中小企業診断士の石村飛鷹です。
お問い合わせの多い、ものづくり補助金(2020年)について解説します。
全業種が受けられる上限1,000万円の大型補助金
2020年は正式名を「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。
今年はコロナ特別枠が設けられ、ますます使い勝手がよくなりました。
「ものづくり」という名前から「製造業だけの制度でしょ?」と誤解されている方も多いですが、
中小企業であれば卸売業、サービス業、小売業、建設業など全ての業種における設備投資が対象です。
※医療法人、社団法人や組合、任意団体などは対象外です。
例年、採択倍率は2倍~3倍程度と難易度の高い補助金ですが、
補助上限額1,000万円、補助率2/3と金額が大きいという特徴があります。
<補助金額の計算例>
税抜750万円の機械の場合
⇒750万円×2/3=500万円
税抜1,500万円の機械の場合
⇒1,500万円×2/3=1,000万円
税抜2,000万円の機械の場合
⇒2,000万円×2/3=1,333万円⇒上限1,000万円
※補助対象金額は税抜で計算します。
※コロナウィルス対策で非対面型ビジネスモデルに転換する際や、
テレワーク環境の整備を行う際は補助率が3/4になる場合があります。
※新型コロナウィルスの影響から事業再開する際のマスク・消毒液・飛沫対策としての
アクリル板などの購入費は別枠で上限50万円まで補助されます。
不動産以外の設備投資であれば基本的に対象
「募集要項をみても補助対象経費が分かりづらい」思われる方が多いようですが、
少々乱暴な言い方をすると、「不動産以外の設備投資」と考えてしまうとスッキリします。
補助対象経費として最も代表的なものとして機械装置・システム構築費などの設備投資が挙げられます。
工場の生産設備や、倉庫内の運搬装置、飲食店の厨房設備、建設業の建設機械、マッサージ店・美容室の施術装置などです。
また、それらの購入に付随する運搬費・技術導入費・外注費、事業化の為の広告宣伝費なども認められています。
「形のない情報システムはダメでしょ?」と思い込んでいる方も多いですが、
情報システムの開発も対象です。
情報システムは目に見える形にはありませんが
「無形固定資産」として資産計上される設備投資です。
ただし、不動産の購入は認められていません。
よって「不動産以外の設備投資が対象」と考えて差し支えないでしょう。
※汎用性の高い自動車・パソコンなどは対象外です。
※税抜50万円未満の設備投資も対象外です。
これから購入する設備のみ対象
よく議論となるのが設備の導入タイミングです。それを理解するためにまず、
応募申請から補助金が入金されるまでの大まかな流れを図のとおり示します。
この日付順は絶対です。前後してしまうと採択されても補助金を受け取れません。
応募申請時にすでに購入済みの設備は対象になりません。
銀行通帳の振込日で確認を受けるので誤魔化せません。
また、①の応募から⑤の発注できるまで2ヶ月~3ヶ月かかります。
来月中に導入しないといけない設備などは残念ながら補助金申請できません。
基本的には融資とセット
先述のとおり国から補助金が入金されるのは採択後に機械を購入し、
さらに事務局からの監査をパスしたあとです。
通常は採択されてから1年弱経ってからです。
つまり、採択・購入してから補助金が振り込まれるまで相当なタイムラグがあります。
手元資金が潤沢にあれば自己資金だけで問題ありませんが、多くの採択企業が金融機関からの借入を行っています。
補助金は返済義務のないお金
融資のように返済義務があると誤解されている方がいらっしゃいますが、
補助金・助成金は貰えるお金です。返済義務はありません。
決算書上では営業外収益や特別利益に雑収入などとして計上されます。
なお、所得に計上されるということは課税対象に成り得るということでもあります。
採択を勝ち取るためのポイント
増収増益・給与アップを前提にする3~5年の事業計画を策定する必要があります。
具体的には以下3つの要件を満たす必要があります。
・付加価値額を年平均3%以上増加させること
・給与支給総額を年平均1.5%以上増加させること
・事業場内最低賃金を地域別最低賃金よりも30円以上とすること
付加価値額とは「営業利益+人件費+減価償却費」です。
「不動産以外の設備投資であれば基本的に対象」と述べましたが、
これら要件を満たそうとすると、必然的に会社業績に貢献する設備投資でないといけません。
申請書には、現状どのような課題があって、
予定する設備投資がその課題をどのように解決して、
結果として会社業績にどう貢献するかを分かりやすく表現します。
単に機械が老朽化したから買い替えたいといった内容の申請や、
専門用語だらけで審査員に解読不能な申請ではまず採択されません。
また、審査基準に加点項目と減点項目があります。
加点項目を積み重ねることも採択を勝ち取る大きな秘訣です。
加点項目と減点項目は公募要領に公開されています。
減点は過去にものづくり補助金に採択されている場合です。
加点とは、経営革新計画や事業継続力強化計画の認定や、
一定以上の賃上げ目標を従業員に表明している場合などに加点されます。
採択を勝ち取るためには分かりやすい申請書は勿論、
加点を積み重ねる努力も必要となります。
注意点
以下の場合は補助金の返還を求められる場合があります。
・事業計画終了時点において給与支給総額の年率平均1.5%以上の増加目標が達成できていない場合
・事業計画中の毎年3月時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成できていない場合
「不透明な時代においてそんなに賃上げを約束するのは無理だ」と思われる方も多いかもしれません。
しかし給与支給総額には賞与や役員報酬を含めることが出来るので比較的調整しやすい費目ではあります。
「事業計画終了時点」とは策定した3~5年間の事業計画が終了した時点です。
できるだけ3年計画で策定した方が返還リスクは低くなるためクライアントには3年計画を薦めています。
※本記事は新型コロナウィルスの影響を受けた「特別枠」について記載しています。
新型コロナウィルスの影響を受けていない場合は補助率が1/2になります。
ただし小規模事業者(製造業・宿泊業・建設業で従業員20名以下、それ以外5名以下)は
新型コロナウィルスの影響を受けていなくとも補助率2/3です。
本記事の筆者
石村 飛鷹(ひよう)
中小企業診断士、MBA(経営学修士)
日本ヒューレット・パッカードにてIT統合コンサルティング、
東京商工会議所で経営指導員として数多くの中小企業向け
コンサルティングに従事したのち独立。
経営者だけでなく営業担当者、製造担当者を巻き込んで
利益改善を図ることを得意とする。補助金採択実績や講演実績も豊富。